「……まあ、真面目な話をすると。
あの子はやめておいたほうが良いよ、椿」
「……悪いけど、それは俺の問題だから」
シイには関係ないと、一蹴する。
後悔しても知らないよと呆れた顔をしていたけれど、後悔ならもう散々した。今更ひとつ増えたくらいで動じたりはしない。
ずっと、好きで。
ノア先輩よりも早くから、好きで。
こんなことならはなびに彼氏ができる前に告白しておくべきだったと、何度も思った。
そのたびにそんな勇気はないんだと誤魔化してきた結果が、いまの現実で。
「……シイは彼女いたら、夏なにしたい?」
こんなぬるま湯に浸かったような現状から、さっさと抜け出してしまいたくなる。
本当はずっと好きで。愛でるように触れて、時に欲望に任せて、奥底まで求めてしまいたい。
そんな風に伝えたら。
間違いなく返ってくるであろう「ごめんなさい」の言葉が怖くて、ずっと、言えなかった。
ごめん、はなび。
はなびは俺のこと仲の良いともだち、ぐらいにしか思ってないだろうけど。もう4年も、俺にとってはなびは特別な女の子でしかないんだよ。
「彼女がいたら?
そんなの、もっと暑くなるようなことするに決まってるでしょ」
「……お前ねえ」
「あ、いま椿ヘンな妄想したでしょ?
俺はバーベキューしたいなーって思ったんだよ。やだ椿クンってば変態」
「修学旅行中に絶対お前の弱み握ってやる」
わざとらしく舌打ちを吐き出して、目を閉じる。
関西までは、あと数十分。一眠りしよう。……どうせ口じゃ、シイには勝てないし。



