どう考えても笑顔でする会話じゃない会話を、笑顔で続けること数十分。

お会計のタイミングでそう言った彼に、素直に払うと言うのも癪で「ごちそうさま」と笑ってみせれば、「ほんといい性格してるね」と褒め言葉には縁遠い褒め言葉をもらった。



どっちが、とは言わないけど。



「送ってあげようか、家まで」



「結構よ。それじゃあ、また」



「……"また"、ね。

次に顔をあわせるのが、ファミレスみたいな平和なとこだったらいいけど」



「はいはい、そうね」



とことん嫌味しか言わない彼に、ひらりと手をふって。

すっかり日の落ちた街を、ひとりで歩く。……まだ高校生は出歩いてもおかしくない時間だけど、ひとりで帰ったなんて知られたら、ノアに怒られそうだ。




なんて考えていたわたしは。



「勝手に接触した上に、挑発まで……

あー……最悪。絶対姉さんに怒られんじゃん」



当然彼のそんなつぶやきを知る由もなく。



信号待ちで立ち止まる、その間に。

わずかに数秒悩んでから、表示した『間宮ノア』の名前を押して、電話をかけてみる。



そろそろ、すこし寂しくなってきただけ。

ちょっと声を聴けたら、それで、いいのに。



「忙しいから、仕方ないわよね……」



信号が変わっても、日が変わっても、ノアから返事はなく。

ようやく彼から連絡が来たのは、"デート"の前日だった。