可愛いキミは、僕だけの××




「要件はそれだけ?私たち、もう行くから」



ごゆっくり、と言い放った瞳先輩が「行こう、希ちゃん」と私を呼んでから颯爽と歩きだしたから、後ろについて行く。


それ以上せんぱいは追いかけてこないだろうと思っていた考えは間違いで、

遠ざかろうとする私の腕をぐいっ、と引いて反対方向へと歩き出した。



「えっ、あの、せんぱ……」

「一緒に来て」


「ちょっと、蓮夜くん?」

瞳先輩が咎めようとするのを見て、城間先輩達に目配せする秋元せんぱい。


「おい、2人を頼んだぞ」

「任せとけって~」


先輩達は軽く返事を返した後、瞳先輩とこはちゃんの所に近づいて行った。



いや、なにこの状況……!?



彼に腕を引かれながら冷静になろうとしていたけど、脳は完全にパニック状態だ。


しばらく歩いて、人通りの少ない砂浜にやって来た。

せんぱいが途中で買ってくれたオレンジジュースを片手に、ゆっくりと砂浜を歩く。



まさか、ふたりきりになれるなんて思ってもみなかったな。

さっきから手はずっと繋がれたまま。


恥ずかしいやら手汗が気になるやらで、何度かさりげなく離そうとしたものの、その度に握る力が強くなってしまう。

意を決して離すように言っても聞いてくれない。


せんぱいには彼女がいるのに、
私とあなたじゃ釣り合わないのに、と頭では色々と考えるけど体は正直だ。

嬉しさと恥ずかしさで体温は高い上に、心臓がドクドクと早鐘を打っているし顔が熱い。



ああ、夢みたい。


とりあえず一旦落ち着こうと、ジュースを飲んでみたりさざ波の音に耳を傾けてみたりしたけれど、効果はあまりなし。

最終的に、ぼーっとしながら彼の背中を見つめていた。


グレーのパーカーを羽織ったせんぱいは真っ直ぐに前を見て歩いていて、すれ違う女の子は必ず振り向いて顔を赤らめる。

私は周りからの視線が気になって仕方がないというのに、せんぱいはそんな視線を全く気にせず堂々と歩いていた。

見られ慣れているんだ。