「お父様とサウスマルケリアの王がお決めになったらしいわ。 私だって聞いたのは昨日ですもの」

「随分と急な話だな」

「実はユリシスには将来を誓い合った方がいらっしゃるの。 それでもお父様達のご命令にはとても背けやしないでしょう?」

「その女とは別れたのか?」

 セオドールお兄様はユリシスに尋ねたわ。
 もちろん妹の為にそうしたのだろうな、という意識が感じられた。

「私は彼女と……ノーラと別れるつもりはありません」

「お前……」

 セオドールお兄様は今にも斬り掛からんばかりな体勢でユリシスを睨むの。
 私は思わず、お兄様とユリシスの間に入って仲裁の姿勢を取ったわ。

 ユリシスはあまりにも信念が真っ直ぐすぎる。 これでは要らぬ敵を作ってしまうのではないの?

「お父様は妾にしろとおっしゃっているわ」

「女が承知するわけがないだろう」

「私の側にいられるのなら、妾でも構わない……。 ノーラはそう申しております」

「ふぅん。 随分と殊勝な心掛けだな」

 セオドールお兄様はどこか気に入らないようで、ユリシスを睨んだまま考え込んでしまった。