恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

「あたたまりました……。あの、置いてあったシャツをお借りしましたけど」

「俺よりも似合ってる。そのシャツ、身に覚えないか?」

 そう言って私の手を引き、ダイニングテーブルの椅子に座らせる。座ると着ているシャツの丈が短くなるので、すごく恥ずかしくて堪らない。裾を引っ張って、太ももをなるべく見えないようにした。

「うーん、すみません、覚えてないです」

 赤とオレンジの中間色だけど、派手すぎない彩色のシャツ。大きいのに着心地がとてもよく、俊哉さんの香りも漂っていて、まるで抱きしめられている感覚があった。このシャツについて、あれこれ考えても埒が明かないと判断した私は、すぐさま降参を申し出た。

「正解は、笑美に路上でアプローチされたときに着ていたシャツ」

「あのときの! カジュアルな服装の俊哉さんをはじめて見ることができて、かなり感動したんです」

「その割には、俺が着ていた服を覚えていなかったみたいだけど?」

 言いながら濡れた私の髪を指で梳き、あらかじめ用意していたのか、ドライヤーをあててくれる。

「俊哉さんに髪を乾かしてもらうなんて……」

 どこかプロの美容師のような手さばきで、私の髪に温風をあてる俊哉さんの指先が頭に触れるたびに、心臓が跳ねるようにドキドキした。

「そんな格好させて、笑美に風邪を引かせたら、俺のせいになるからさ。とっとと乾かすぞ」

「はい。お願ぃします」

 私のことを考えて、常に優しく行動してくれる俊哉さん。ときどきこうして強引にされるところも、惹かれずにはいられない。だから素直に従ってしまう。

「俺と同じシャンプーを使ってるはずなのに、どうしてだろうな。まったく違う香りになってるのは」

「俊哉さん?」

 ドライヤーの音でなにを言ってるのか、ところどころしか聞こえない。

「ほしくてたまらなくなる……」

 聞き逃したくなかったので、振り返って耳をそばだてた。すると、頬を染めた俊哉さんと目が合う。

「笑美っ、寒くないか?」

 メガネの奥の瞳を泳がせながら問いかけた俊哉さんに、「大丈夫です」と答えたら、ドライヤーがオフにされた。

「大まかに乾かしたが、仕上げは自分でやってくれ。その間に風呂に入ってくる」

 俊哉さんは持っていたドライヤーを私に押しつけるように手渡すと、逃げる感じでバスルームに消えてしまった。その姿が見えなくなったというのに、なにかにぶつかる音まで聞こえてきて、らしくない俊哉さんのドジっぷりに笑ってしまったのだった。