恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

***

「ん、ふわぁあぁ……」

 目を擦りながら、大きな欠伸をした。昨夜佐々木先輩とのLINEのやり取りで睡眠不足だったこともあり、深く眠ってしまったことを考えた瞬間、見知らぬ天井が目に飛び込んだ。

「ここどこ? わたしはどうして――」

 ふかふかのベッドから起き上がり、改めて部屋の様子を眺めてみる。というか、天蓋付きのベッドの時点で、誰のお宅にお世話になってしまったのか、嫌でもわかってしまった。

 誰が着替えさせたのか不安だけど、ツルツル素材のパジャマはたぶん、シルクだと思われる。しかもどれくらい私は寝てしまったのか、窓から差し込む光だけでは時間が判断できなかった。

「確か昨日と同じルートで澄司さんに車で送って貰ったけど、駅を過ぎて自宅前に――」

 ぶつぶつ言いながら、今日の出来事を反芻した瞬間、ゾワッと身の毛がよだつ。

「弘明、ナイフを持ってた……」

 私を無事に綾瀬川家に連れ帰ってるということは、澄司さんが弘明とやり合い、ぶちのめしたということなのかな。

(弘明と交渉するにも、私を一千万円でやり取りしようとした相手に、こうして無様にお世話になるなんて情けない……)

 キィという扉の開く音が聞こえたので顔を向けたら、中に入ってきた澄司さんと目が合う。頬に貼られた大きな絆創膏にハッとし、慌ててベッドの上で正座をして、深く頭を下げた。

「澄司さんごめんなさい!」

「いきなりどうしたんですか?」

「だって怪我をしてるので……。弘明とのことは、澄司さん無関係なのに」

 澄司さんがベッドに腰かけたのだろう。軋んだと同時に、頭を下げる私の背中を撫でた。

「無関係なんて、寂しいことを言わないでください」

「でも……」

「彼につけられたキズは、名誉の勲章です。笑美さんに怪我がなくてよかった」

 そう言って私の体を起こさせると、広い胸の中にぎゅっと抱きしめられてしまった。

「澄司さん……」

(ベッドでこういうことをされるとすごく困るのに、ケガをさせてしまった手前、拒否なんてできないよ)