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 やっっと、書庫に着いた。応接間から書庫までの距離はそんなに遠くないはずなのだが、精神的疲労が凄い。もうヤダ、癒しが切実に欲しい…。

 
 「あっ、アンジュ、魔法書はここの区画の棚にあ
 るみたいだよ」

 「本当?ありがとう、兄様」

 
 さて、今私たちは魔法書を探していたところだった。書庫は現世の図書館並みに広いので、2人で手分けして探していたのだ。

 こういうとき、普通の子息令嬢は使用人にさせるのだろうが、生憎私は前世庶民でそういうことは自分でやっていた。まぁ、何が言いたいのかというと人を使うのに慣れてないのだ。

 公爵令嬢としてはあるまじきことかもしれないが、ウチの家族は皆自分で出来ることは自分でするという感じなので大丈夫だった。
 ただ、使用人達に“仕事を取らないで下さい!”と言われてしまうので、程々にしている。
 
 そういえば、お母様がこの前夕食を作ろうとしてて、料理長と料理人達が必死に止めてたなぁ。
 料理長とか、涙目だったらしい。マリンが兄であるダイナス経由でそう教えてくれた。
 
 あの料理長を泣かせるなんて、流石お母様だわ…


 私はそのことを思い出し、遠い目をしながら兄様の方へ近づいていった。

 

 魔法書のある区画の棚は気配からして何か違った。うまく言えないが、きらきらというかふわふわというか、そんな雰囲気がして、何かが溢れる感じがした。
 まぁ、1言で言うと、妖精や精霊達が好きそうな感じだった。

 
 「兄様」

 「うん、言いたいことは分かるよ」

 どうやら兄様も同じ様なことを思ったみたいだ。
 
 あの子たちをここに連れてきたい、と。

 あの子たちとはもちろん仲良くなった妖精や精霊達のことである。
 ただの勘でしかないが、弱っている時に連れてきたらすぐ元気になりそうな気がする。

 私と兄様は目を合わせてうなずいた。

 
 「それにしても、何故この場所だけ気配が違うの
 でしょうか?」

 「うーん…。もしかしたら、長い年月を経て魔法
 書に少なからず魔力が宿ったのかもしれないね」

 「確かに、それは有り得そうですね」

 
 それぞれ読む魔法書を吟味しながら話していると、書庫の扉が開かれる音がした。

 
 どちらかの専属従者(侍女)かな、と思って目を向けると、見覚えのある外側にはねた栗色の髪が見えた。
 
 栗毛の人物はウチに1人しかいない。

 「料理長おかっね〜…」などと呟き、書庫に飛び込んできたのは、先程ドナドナされたはずのマルスだった。

 
 え、なんでマルスがここにいるの!?
 というか、仕事は?もう食器洗いは終わったの?
 それにしても、ダイナスが大変そうだなぁ。
…などなど、思うことは色々あるけど

 「マルスさん、一体何をしているのですか?」

 ひとまず、声をかけないと話は始まらない。


 「ザ、ザライド様にアンジュお嬢様!」

 マルスはどこか焦った様子で、その態度は
 
 どうしてここに2人が?!

と、言外に伝えてきた。

 
 いや、それはこっちのセリフだよ…。


 「どうしたマルス?何を焦っている?」

 「あ、いえ、そんなことは…」

 
 いやいや、マルス、貴方どう見ても焦ってるよ。
 目だってうろちょろしてるよ。
 
 まぁ、マルスのことだし、また何かやらかしたんだろうな〜…料理長関連で。