「では、ありがとうございました。
失礼します」
リラクゼーションルームを出るとき、唯由は反射的にそう言いながら、なにがありがとうなんだろうな……と思っていた。
脅されて、電話番号を訊かれて。
ああ、お菓子もらったか、と思いながら廊下に出る。
長居しちゃったから、早く帰らないと怒られるな。
もう持って帰れるようなら、コーヒーカップ持って帰るけど。
どうだろうな、と応接室を窺っていると、蓮太郎もリラクゼーションルームから出てきた。
「蓮形寺」
と唯由を呼び止めたあとで、蓮太郎は何故か周囲に人がいないのを確認しはじめた。
なんなんだ、と思う唯由の腕をつかんだ蓮太郎は、いきなり唯由の頬に口づけてきた。
微かに触れるくらいのキスだったが、飛んで逃げた唯由は勢いあまって窓側の壁に背中から激突してしまう。
「なっ、なにするんですかっ」
今キスされた頬を手でかばうようにして唯由は叫んだが。
蓮太郎は平然とした顔で、
「いや、愛人というのは、人目をはばかりながら、こういうことをするもんじゃないのか?」
と言ってくる。
あの夜みたいに照れてもいない。



