駅には宿からの迎えの車が来ていた。
見晴らしのいい山の宿に着くと、従業員たちがずらりと並んで出迎えてくれる。
「唯由」
と女将の保子が出てきたので、唯由は慌てて蓮太郎に小声で言った。
「あの、おばさんのことは、保子さんでお願いしますね。
おばさんとか言うと、はっ倒されると思うんで」
「はっ倒しゃしないわよ。
まあ、ゆっくりしていきなさいよ」
……聞こえていたようだ。
保子は、ふうん、と蓮太郎を上から下まで眺めたあとで言う。
「あんた、こんないい男でいいの?
お母さんみたいに浮気されるわよ。
まあ、浮気とかできるほど小器用そうでもないけど。
あんたのお父さんだって、ただただ不器用でやさしい人だったのに、あんなことになっちゃったんだから。
早月さん、なんで、あんな昔の恋人を突き離せないような優柔不断な男を選んじゃったのかしらね。
面倒見のいい人だからかしら」
そ、その優柔不断な男の方があなたの実の弟ですが、保子さん……。



