(仮)愛人契約はじめました




 唯由は手に入れたカメラを手に、テクテク夜道を歩く。

 スマホのカメラではないカメラで、この旅行のすべてを残しておきたいと思ったのはほんとうだ。

 だが、カメラをその辺で買わずに実家まで取りに帰ったのは。

 きっと、旅行前にもう一度、生まれ育った家を見てみたかったから。

 母も住んでいない。

 父もほぼいない。

 でも、やっぱり、あそこが私のおうちだったから。
 
 迷いはしたけど、今日、行ってみてよかった。

 そう唯由は思っていた。

 ちょっと甘えてみせたら男はイチコロなんていう、自分には実現不可能なアドバイスより、もっと嬉しい言葉をもらえたからだ。

「あなたが出ていったあと、どんなすごい料理人に作らせても、朝晩のご飯、美味しいと思えなかったわ」

 ふふ、と唯由は笑う。

 ありがとうございます、お義母さん。

 お義母さんに、もう私の味が家庭の味になってるんだろうとか言っちゃったけど。

 ……雪村さんにとっても、私の味が家庭の味になってくれたりすると嬉しいんだけど。

 ともかく、他の女が付け入る隙を与えないことよっ、という虹子の言葉を思い出し、唯由は、よしっ、朝、私から雪村さんに、おはようございます、とか送ってみよう、と決意する。