「ありがとうございます」
唯由が帰り際、玄関先で頭を下げると、珍しく見送ってくれた虹子が眉をひそめ言ってきた。
「なんで、あなたがありがとうなのよ。
美味しかったわ、中華粥。
……あなたが出ていったあと、どんなすごい料理人に作らせても、朝晩のご飯、美味しいと思えなかったわ」
何故かしらね、という虹子に唯由は苦笑する。
「たぶん……その料理人の方々のお食事、口では美味しいと思ってらしたんだと思いますよ」
「じゃあ、何故よ?」
と言う虹子に、唯由はちょっと笑って言った。
「きっともう、私の味がお義母さんにとっての家庭の味になっていたからです。
……さっきのお話、中華粥を作った労力以上の価値がありました」
ありがとうございました、と夜中に作らせて悪かったと多少は思っているらしい虹子に頭を下げる。
頭の上から虹子の声がした。
「まあ、旅行、頑張って。
ここから出てあなたが幸せになってくれたら、私たちがここにいることに少しは言い訳が立つから」



