(仮)愛人契約はじめました

 いざとなったら、悲鳴を上げればいい。

 屈強な使用人たちと、なんだかわからない迫力のある三条がすぐにやってくることだろう。

 学生時代、声楽をやっていたので、声量には自信があった。

 あの頃の私は夢みがちな乙女だったな、と思い出す。

 まさか、自分が略奪女と呼ばれることになるなんて。

 恋愛小説やドラマのヒロインのように、一直線に愛に向かって走り、みんなに祝福されて結婚することを夢見る少女だったのに。

 人生、いろいろと上手くいかない。

 誰もが人の人生の悪役になりたくてなるわけではないのに、とも思うが。

 自分の立場になったのが、早月だったり、唯由だったりすれば、まったく違う生き方をしていたのだろうな、というのはわかっていた。

 あ~、此処に唯由さんがいたら、自分では想像もつかないような手段を使って、一瞬で撃退してくれそうなのに、
と虹子はつい、娘ではなく、唯由を頼ってしまう。

 早月が育てたあの逞しい娘は、どんな逆境でもすり抜けて楽しくやってそうだ。

 だが、そんなシンデレラ唯由も出ていってしまって、もういない。

 シンデレラに頼れなくなった継母は、暖炉の側にあった火かき棒を手に取った。

 唯由が見ていたら、
「いやいや、いきなり不審者、撲殺する気ですかっ」
と叫びそうだったが。

 ()られる前に殺る。

 殺られそうになくとも殺るっ、が虹子の信条だった。