(仮)愛人契約はじめました

「やだ、ごめんなさい。
 あなた、喫茶の人じゃないわよね?」

「秘書の蓮形寺です。
 お疲れ様です」

 いや、秘書とはいっても、新人で下っ端の使いっ走りなんですけどね、と思いながら、唯由は言った。

「ごめんね~っ。
 ちょっと今、手が離せなくてっ」

 お客様が数人いらしているようだ、とガラス張りの応接室を見ながら唯由は思う。

「私、配るの手伝いましょうか?」
と言うと、

 ありがとうっ、助かる~と大感謝された。

「いやー、秘書の人がやってくれると手慣れてるから助かるわ。
 私なんて、今にもひっくり返しそうで。

 出す順番とかもよくわからないし」

 可愛らしい彼女は、今田紗江(いまだ さえ)という研究棟のスタッフだった。

 ふわふわした茶系のロングヘアを邪魔にならないようにか、適当に、ひっつめている。

 研究棟って下の事務室くらいまでしか入らないから、よく知らないな~と思いながら、
「いえいえ、私もよくひっくり返すんで」
と笑って、紗江を青ざめさせながらも、無事に運んだ。