「このかぼちゃの馬車、帰りも動くんですね」
呑まなかった蓮太郎の車の中、唯由は街の灯りを見ながら、そう呟いた。
「酔ってんのか、シンデレラ」
「酔いません。
私、ザルですから」
と言いはしたものの、なんだかいい気分な酒であったことは確かだった。
「……お母さんが出て行ったあと、あの屋敷にひとり残って。
でも、すぐに新しいお母さんと妹ができました。
お義母さんは使用人の人たちをみんな辞めさせてしまい。
長女なんでしょ。
後継ぎなんでしょ。
じゃあ、この家のこと、みんな、やりなさいって言ってきて。
私、最初はなにもできなくて、泣いてばかりだったけど。
あるとき、自分が磨いたグラスがシャンデリアの灯りにすごく輝いてるのが見えて。
次の日、銀食器をYouTube見ながら熱心に磨いたら」
「本じゃないのか」
今どきだな、と前を見たまま蓮太郎が言う。



