(仮)愛人契約はじめました

「……そんなつもりない、という意思表示も込めて出て行ったはずなんですけどね。

 それにしても、なんだかんだで手土産も持たずに来てしまったのに、夕食までご馳走になるとか」

 そうだ、と唯由は知り合いの店に電話した。

「服部さん、すみません。
 もうすぐ閉店ですよね?

 あの、お店、まだケーキとかあります?
 焼き菓子とかでもいいです。

 明日の営業に支障がない程度に店内のもの、全部持って来てくださいますか?
 配達料もお支払い致しますので。

 はい。
 お願い致します。

 今、雪村真伸さんのご自宅に伺ってるんですけど。
 急だったので、手土産も持たずに来てしまって。

 場所、わかります?

 ……ええ。
 日持ちしないもので大丈夫ですよ。

 ここで働いてらっしゃる皆様にもお配りしようかと。

 お金、明日振り込んだので大丈夫ですか?
 こちらこそ、いつもありがとうございます」

 唯由はスマホを手にしたまま、ぺこぺこ頭を下げた。