「蓮形寺くん、仕事はもう慣れたかね」

 帰り際、エレベーターホール近くで社長と出くわして、そう言われた。

 それ、朝も訊かれました、と思いはしたのだが。

 社長、新人みんなにそう言って歩いてるんだろうな。

 他に会話、急に思いつかないのに、一生懸命話しかけてくれてるんだろうな。

 ありがたいことだ、と唯由は思っていた。

 実家の関係で会社の偉い人たちはよく見るが、どんな立場になっても謙虚な人もいれば、横柄な人もいる。

 いい社長でよかった、と唯由が思ったとき、いきなり、横にあったエレベーターが開いた。

 蓮太郎が現れる。

「本当に早く終わったぞ。
 さあ、帰ろう、蓮形寺」
と大股にやってきて、唯由の手をつかんだ。