(仮)愛人契約はじめました

 


 その頃、別の場所にも無自覚のまま、恋をはじめようとしている男がいた。

 昨日は結局、帰れなかったな、と思いながら、蓮太郎は研究所の外の自動販売機に冷たいコーヒーを買いに出ていた。

 リラクゼーションルームにもあるのだが、眠気覚ましに歩こうと思ったのだ。

 そう。
 眠気覚ましだ。

 意味もなく、秘書課のある棟近くまで歩いているわけではない、と蓮太郎は途中で買った缶コーヒーを手に思っていた。

 もう用は済んだのに、まだ歩いているのも眠気覚ましだ。

 他意はない。

 そのとき、唯由が友人たちと笑いながら、こちらにやってくるのが見えた。

 いや、すごく遠かったのだが、蓮太郎には何故か、あの中に唯由がいる、とわかった。

 冷えた缶コーヒーを握り締める。