右目に涙ぼくろのある瞳は、私ではなく先程出来上がったバノフィーパイを映している。




「これ、あんたが作ったの?」




「そうだけど。

これから食べるところ。
時間があるならあんたも一緒に食べる?」




「え…いいの?」



頷きながら彼にフォークを差し出すと、目を輝かせながらまずパイ生地の上に乗っていたクリームを口にする。




「甘くて美味しい。初めて食べる。」



「それは良かった。」



彼は余程甘いものが好きなのか、バクバクと口に放り込む。



美味しそうに食べているのを見たら、甘いものが欲しかったはずなのに満足になっていて。



でも、久しぶりにパイ生地から作ったから一口は食べておく。




うん、美味しい。


私がまだ感情があった時、まだ泣き虫だった時、母が泣く度に元気付けようと作ってくれていたもの。




「ごめん。
美味しくて全部食べちゃった。」