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「っ、ちょ、鞠ちゃん……!?」
がやがや、賑やかな藍華のたまり場の中。
突然のその声に全員が顔を向けたのは、普段比較的穏やかで大きな声なんて上げねー暖が、大きな声を上げたからだった。
俺がそっちを見たのは、鞠と聞いて反射的に。
けれど、すぐに"見なきゃよかった"と思った。
「は?」
声を上げた暖の身体に腕を回して、抱き着いている鞠の姿。
暖が鞠を抱きしめていた昨日の早朝とは、ワケが違う。
「鞠ちゃ、」
「やだ……わたしのこときらい?」
まるで俺のことなんか見えてねーみたいに。
慌てたように離れようとする暖にそう詰め寄る鞠の姿に、舌打ちしたくなる。……意味わかんねーよ。
「嫌いじゃないけど、」
「鞠」
悪いが俺は、どんな理由があったとしても、それをハイハイと受け入れるだけの余裕なんて持ち合わせていない。
誰に揶揄われようが、鞠が一番であることに変わりはなくて。
歩み寄って名前を呼べば、いつもより油断した瞳が俺を見た。
……なんか、ほわほわしてんな。
「えへへ、恭だ」
嬉しそうな声で、そう言って。
暖を引き止めていたことなんて嘘だったみたいに、俺の身体に鞠の腕が回る。



