「お前はいいヤツだよ」
『そりゃどうも。
……まあ容易に"安全牌"にされるのはどうかと思うけど。生憎、略奪とか趣味じゃないんだよねえ』
「それも知ってる」
『だろうな~。
恭のことだから、なーんか引っ掛かる、ぐらいで俺のこと気にしてそうだけど。マジで気遣わなくていいから』
今まで通り、何も変わらなくていい。
そう言ってくれる暖は、やっぱりすげーいいヤツだと思う。それこそ、安全牌っていう言い方はアレでも、何かあれば鞠のことを任せられるくらいには。
『あえて口出しするなら。
しつこいようだけど、鞠ちゃんのことは責任もって幸せにしてやれよ~ってぐらいかな』
小さなアパートに、高級マンション。
その双方の記憶が、脳裏で色づく。……どれかひとつが欠けていたら、きっと俺らは、こうやって向き合うことはできなかった。
「覚悟がねーなら、指輪なんて渡すかよ」
『ふは、それもそうか。
お前も案外、思い切ったことするねえ』
覚悟って言ったって、ただ一生をかけて守り抜くと決めただけ。
ずっと離さずにいる覚悟なら、鞠と再びやり直したいと思った時から既にある。
『んじゃ、それだけ。
明日はチカちゃんのご機嫌取り頑張りますかねえ』
「めんどくせーから任せた」
『ぜったいお前に押し付けてやる』
拗ねてるであろうチカを思い浮かべて、思わずふっと笑みが漏れる。それは暖も同じだったようで。
また明日、と電話を切ったあと。「まあ、鞠ちゃんもう幸せだろうけど」と暖が言っていたことなんて、俺には知る由もない。



