STRAY CAT Ⅱ




「お前はいいヤツだよ」



『そりゃどうも。

……まあ容易に"安全牌"にされるのはどうかと思うけど。生憎、略奪とか趣味じゃないんだよねえ』



「それも知ってる」



『だろうな~。

恭のことだから、なーんか引っ掛かる、ぐらいで俺のこと気にしてそうだけど。マジで気遣わなくていいから』



今まで通り、何も変わらなくていい。

そう言ってくれる暖は、やっぱりすげーいいヤツだと思う。それこそ、安全牌っていう言い方はアレでも、何かあれば鞠のことを任せられるくらいには。



『あえて口出しするなら。

しつこいようだけど、鞠ちゃんのことは責任もって幸せにしてやれよ~ってぐらいかな』



小さなアパートに、高級マンション。

その双方の記憶が、脳裏で色づく。……どれかひとつが欠けていたら、きっと俺らは、こうやって向き合うことはできなかった。




「覚悟がねーなら、指輪なんて渡すかよ」



『ふは、それもそうか。

お前も案外、思い切ったことするねえ』



覚悟って言ったって、ただ一生をかけて守り抜くと決めただけ。

ずっと離さずにいる覚悟なら、鞠と再びやり直したいと思った時から既にある。



『んじゃ、それだけ。

明日はチカちゃんのご機嫌取り頑張りますかねえ』



「めんどくせーから任せた」



『ぜったいお前に押し付けてやる』



拗ねてるであろうチカを思い浮かべて、思わずふっと笑みが漏れる。それは暖も同じだったようで。

また明日、と電話を切ったあと。「まあ、鞠ちゃんもう幸せだろうけど」と暖が言っていたことなんて、俺には知る由もない。