「下にルームウェア取りに行ってくるわね」
一言告げて、部屋を出ようとドアノブに手をかける。
それと同時に後ろからぎゅうっと抱きすくめられて、思わず肩が跳ねた。っ、不意打ち……!
「行かなくていい。気が変わった。
つーか。……俺のこと置いてどこにも行くなよ」
「い、かないわよ」
「約束な」
肩に顎を乗せられているせいで、耳元で囁かれているみたいに聞こえてなんだかそわそわしてしまう。
"どこにも行くな"と言った彼の頭には、一度別れを告げて彼を遠ざけたわたしと、わたしを好きだと言ってくれた暖くんへの不安があるんだろうか。
強く抱き締めてくれる彼の腕の中でしっかりと頷く。
もうどこにも行く気はないけれど、どうか、その腕でそうやって逃げないように閉じ込めておいてほしい。追われる女の方がいいって、暖くんも言ってたし。
「鞠」
「うん」
「お前が思ってるより、俺はお前のこと好きだからな」
「ほんとに?
わたしも、恭が思ってくれてるより恭のこと好きだと思うんだけど」
抱きしめられたままだから、顔だけで振り返って恭と目を合わせる。薄暗い中でもしっかり目が合って、どちらともなくキスした。
くちびるが離れた瞬間に身をよじって、恭の方へ向き直る。
「っ、」
そんな熱っぽい瞳で見つめるのはズルい。
何を言われたわけでもないのに恥ずかしくなって、言葉が出てこなくなる。何か言おうとするけれど、結局それは二度目のくちづけに呑まれて叶わないまま。



