「ほ、んとは最初に見せるつもりだったわよ」
「わかってる。
……俺が連絡も取れずにここに帰ってこられなかったのが悪いことはわかってんだよ」
「いや、そこまで言ってないけど……」
「でも暖がお前のこと抱き締めてたのは別問題だろ」
眉間を寄せる恭は、心底嫌そうで。
それすら愛おしく感じてしまう。恭を待ちきれなくて暖くんに電話を掛けたのはわたしで、迷惑を掛けたのに、暖くんは嫌な顔ひとつせずにいてくれた。
それどころか、恭に「もう泣かせんなよ」とだけ言って、暖くんは帰っていった。
恭と付き合うまでずっとわたしたちを繋いでくれていたあすみくんもそうだけど、恭のまわりの人たちはみんな人が好すぎると思う。
だからこそ、みんなが困ったときには、絶対に助けてあげたい。
あんなにずっと遠ざけていたはずなのに、気付けば切っても切れないくらいには大切になってる。
「とりあえず……着替える?
わたしも恭も上着着たままだし、」
なにより、ずっとこのままの体勢なの恥ずかしいんですけど。
そう思って提案すれば「ああ、」と納得した素振りを見せたのに、なぜか一向に退いてはくれない恭。
「恭?」
「ん?」
「……えっと、着替えないの?」
どうすればいいんだろうこれ。
今までにない対応をされて戸惑うわたしに、恭はふっと笑う。それからようやく退いてくれたかと思うと、自分のダウンを脱いで、わたしのコートも一緒にハンガーへと掛けてくれた。
朝洗面所で着替えたから、ルームウェアは下のリビングに置きっぱなしだ。
恭に見せるなら、一度取りにいかなくてはいけない。



