◇
「んっ、恭、」
「ん?」
ん?じゃないのよ。
玄関に入って扉と鍵を閉めた瞬間、壁に背中を押し付けられるようにしてくちびるを塞がれた。押さえつける力は強くないのに、キスが強引なせいで変にドキドキする。
「ちょっと、っ……」
コートの隙間から器用にニットまでたどり着いて、中に冷たい指先を潜らせてくる彼。
思わず制止の声を上げれば、彼は再度「ん?」なんて首を傾げてるけど。
「ここ、玄関だから……」
頬がじわりと熱くなるのを感じながら、じっと3秒ほど恭を見つめる。
すると何を思ったのか、恭はそのままわたしをひょいっと担いで。
「じゃあ、部屋行くか」
「っ……」
そ、ういう問題じゃないんだけど。
担ぎ上げられた不安定さが怖くて恭にギュッと抱きついたら、耳元で恭が笑った気配がする。その意味を理解するよりも早く、たどり着いた部屋のベッドにおろされた。
「相変わらず綺麗だな」
黒いシーツの上に広がる髪は、鮮やかに発色していて。
それを指に絡めた恭が、ベッドに体重をかけたせいでキシッとスプリングが軋む。その音が、妙に空気を色づかせる。
「恭……」
寄り道したマンションの前で彼と目を合わせてから、こうなることが分かってなかったわけじゃない。
むしろわかっていたのに、触れられる嬉しさを知っているのに、それでもギリギリまで恥ずかしさに抗いたくなるこの気持ちは一体何なのか。



