それを聞いて、思わず舌打ちする。
一刻も早く鞠のところに帰りたいのに、余計なことしやがって。しかも俺に紗七を任せて、肝心のじいさんは仕事にもどったらしい。
「いいわよ、舌打ちするならひとりで帰るから」
「送る。……送らねーとじいさんうるさいし」
「まあ後日3時間ぐらいはグチグチ言われそうね」
花蔵の絶対的な権力者。
文句のひとつも言いたくはなるが、孫が倒れて病院にちゃんと駆け付けたり、帰りの心配をしていることを考えれば、家族思いではあるんだろう。
「じゃあ、お願いね。恭」
点滴が終わるまでは、まだもう少しかかる。
とりあえず鞠に連絡を、と頭で考えていたら。
「恭」
「ん?」
「ちょっとそれ取ってくれる?」
指さされた先にあるのは、ベッドからは届かない位置に置かれている透明なクリアファイル。
近づいてそれを手に取ってから、眉間を寄せてクリアファイルを元の位置に戻した。
「渡すわけねーだろ。こんな時まで仕事かよ」
「うわ、恭がおじいちゃんと同じこと言う」
「あたり前じゃねーか。なんで倒れたと思ってんだ」