STRAY CAT Ⅱ








「……もう何もしたくねー」



「お疲れ様、恭」



出勤してから約4時間。

とっくに本来の定時を回り、紗七以外の社員はぱらぱらと順に帰っていった。定時から2時間で誰もいないのを考えたら、残業もほぼナシの優良企業だ。



視線をパソコンと書類に往復させて、さすがに目が疲れた。

ある程度のノルマを達成して、紗七以外に誰もいないのをいいことに、思わず嘆く。



お手洗いに行ってくると一度出て行っていた紗七が帰ってきて、「ほら」と手渡してくるのは缶のカフェオレ。

サンキュ、とそれを受け取って、プルタブを起こした。



「頑張ったわねー。

わたし初日にこんなに教えてもらった記憶ないわよ」



母さんの伝言通り、鬼スパルタ。

まあ、いくつかを点々と教える鞠とは違って、俺にはほぼ全部署の仕事を覚えさせるつもりらしいから、弱音は吐いてらんねーんだろうけど。




「……まあ、仕方ねーよ」



母さんが、とにかく俺と鞠を結婚させたいらしい。

だから俺に一刻もはやく仕事を覚えさせ、養えるだけの手取りを与えて鞠と結婚させるついでに、俺を戦力にする気満々なんだろう。



「片付けたら帰りましょうか」



「ん、」



パソコンの電源を落とし、カフェオレを飲み干す。書類をまとめて電気を消すと、紗七と部屋を出た。

社員証がすべての鍵になっているから、タイムカードとか面倒なことはしなくていいらしい。……変なとこハイテクなんだよな、うちの社内。



エレベーターに乗り込んだタイミングでスマホを見れば、『エントランスで待ってるね』と鞠からの連絡がある。

1階でエレベーターをおりて、ゲートに社員証をかざして外に出ると、エントランスの椅子に座って俺を待っていた鞠。



「紗七どうやって帰んの?」