◆
「……もう何もしたくねー」
「お疲れ様、恭」
出勤してから約4時間。
とっくに本来の定時を回り、紗七以外の社員はぱらぱらと順に帰っていった。定時から2時間で誰もいないのを考えたら、残業もほぼナシの優良企業だ。
視線をパソコンと書類に往復させて、さすがに目が疲れた。
ある程度のノルマを達成して、紗七以外に誰もいないのをいいことに、思わず嘆く。
お手洗いに行ってくると一度出て行っていた紗七が帰ってきて、「ほら」と手渡してくるのは缶のカフェオレ。
サンキュ、とそれを受け取って、プルタブを起こした。
「頑張ったわねー。
わたし初日にこんなに教えてもらった記憶ないわよ」
母さんの伝言通り、鬼スパルタ。
まあ、いくつかを点々と教える鞠とは違って、俺にはほぼ全部署の仕事を覚えさせるつもりらしいから、弱音は吐いてらんねーんだろうけど。
「……まあ、仕方ねーよ」
母さんが、とにかく俺と鞠を結婚させたいらしい。
だから俺に一刻もはやく仕事を覚えさせ、養えるだけの手取りを与えて鞠と結婚させるついでに、俺を戦力にする気満々なんだろう。
「片付けたら帰りましょうか」
「ん、」
パソコンの電源を落とし、カフェオレを飲み干す。書類をまとめて電気を消すと、紗七と部屋を出た。
社員証がすべての鍵になっているから、タイムカードとか面倒なことはしなくていいらしい。……変なとこハイテクなんだよな、うちの社内。
エレベーターに乗り込んだタイミングでスマホを見れば、『エントランスで待ってるね』と鞠からの連絡がある。
1階でエレベーターをおりて、ゲートに社員証をかざして外に出ると、エントランスの椅子に座って俺を待っていた鞠。
「紗七どうやって帰んの?」



