視界の端にあったエレベーターに向かう間も、ひしひしと感じる視線。
まあ金髪の男とピンク髪の女が、制服でここに入ってきたら浮くに決まってる。……鞠は変なとこで肝据わってるせいで、何にも気にしてねーみたいだけど。
エレベーターに乗り込んで、再度社員証をかざして7と10のボタンを押す。
ちなみに花蔵本社ビルは40階建てで、上層の10階には別のエレベーターを経由する必要があるらしい。
……セキュリティのためとは言え、なんつー不便な。
俺の祖父、父親、帰国している時は母親も、大体その上層階のどこかにいる。社長のスケジュールなんかは当たり前に側近の人間しか知らねーから、何か用事がある時は直接連絡しろと言われた。
「……ひとりで無理すんなよ?」
「大丈夫、ありがとう。恭も無理せずね」
ふわりと笑ってくれる鞠に触れたい気持ちが出たが、さすがにここは社内だ。
カメラなんて当たり前に設置されてるだろうし、7階で手を振っておりる鞠に、手を上げて応えるだけに留めた。
……さて。
とりあえず到着さえすれば、あとはすべて教えてくれるように頼んであるから、と言われたけど。
ぽーん、と音が鳴って開く扉。
一息ついてから、そのまま足を踏み出す。
白を基調としたビル内の静かな廊下。
『第一生産事業部』と書かれたプレートを見て、思わず顔を顰めた。……何が、とは言わねーけど、苦手なんだよなこういうの。
思わず、ドアをノックする手を止めて。
深呼吸でもするかと思っていたら、ドアがいきなり内側から開いた。落ち着く暇も与えてくんねーらしい。
「待ってたわよ、恭」
「……紗七?」
ぽつり。
その名前を呼べば、彼女は「どうぞ」と俺を部屋の中へ招き入れる。特に逆らうこともせずに中へ入れば目の前に広がるオフィスに、頭が痛くなりそうだ。
「恭、よく引き受けたわね。
こういうの、いちばん苦手なんじゃないの?」



