それはたぶん鞠も、鞠の父親も思ってる。
蒔がいつか生涯を共にできる相手を見つけられるまで、自分たちの手で幸せにしたい、と。
そこに俺が割り入るのはおかしな話かもしんねーけど。
……俺は俺で、蒔に救われたところが、少なからずあると思ってるから。
「なー鞠」
「うん?」
「すげー気の早い話しすっけど、」
「うん……?」
蒔のことも本当の妹みたいに大事に思ってる。
何かあったら助けてやりたいし、守ってやりたいし、支えてやりたいし。愛情と言われば確かだけど、それでも鞠への愛おしさとはまた違うものだった。
「仕事して、最初の給料で。
……蒔連れて、どっか出掛けようぜ」
ぱちぱちと、鞠がまばたきする。
それからその瞳は、まるで自分のことのように嬉しそうに細められた。……いつだって蒔のことで一生懸命な姿が、本当に健気で放っておけなくなる。
「ありがとう。
……蒔、絶対よろこんでくれるから」
「どこ行きたいか聞かねーとな」
そんな約束を取り付けたあと、車は花蔵の本社ビルにある地下駐車場へたどり着いた。
送迎してくれた橘花の運転手にお礼を言って車を降りると、事前に渡されていた社員証をかざして社内に繋がる扉を開く。
「恭は10階なのよね?
わたし7階だから、ここからは別々みたい」
階段で1階に上がると、正面入口から見える受付よりも奥側へと出たのがわかった。
社員証をかざすゲートがあるから、車通勤以外の手段を用いた場合は正面から入ればいいらしい。



