「おかえり、恭」



「ん。ただいま」



俺に気づいた鞠が先に扉を開けてくれるから、そのまま乗り込む。

特に何も言わずとも、俺が乗ったのを確認すると車は静かに花蔵の本社ビルへと向かって走り出した。



「……そういえば、制服なの新鮮ね」



ふふっと嬉しそうな鞠の表情。

確かに金曜に会う時も着替えてから会ってるし、平日は何か用事がない限り会わない。部屋に置いてあるから制服は目にするけど、着てるのを見るのは久々な気がする。



「平日にたくさん会えるようになるのも嬉しい」



……またこいつはかわいいこと言いやがって。

この間"ずるい"なんて言ってたけど、俺からすれば鞠の方が十分ずるい。




「仕事だからデートじゃねーけどな」



「う……わかってるもん」



「蒔に文句言われなかったか?」



いままでずっと一緒にいた姉が、週末は俺と過ごすようになって。

平日の夜の限られた時間も、仕事で忙しくなる。引っ越したり、父親と住むことになったり、ただでさえ環境の変化が大きいってのに。



「……言われなかったわ。

寂しいはずなのに、なんの文句も、言わないのよ」



明らかに我慢してる。

それでも何も言わないのは、知らなくてもいろんなことを悟っているからだろう。



鞠のことを思うのとは、また別で。

……蒔のことも、幸せにしてやりてーなって思う。