「そうねえ。恭、バイトしてみない?」
「嫌な予感するな……」
「ほら、花蔵と橘花が今後一緒に歩んでいくことになったじゃない?
それでね、各地を飛びまわるママのサポートをしてくれる人の手が追いつかなくなってきてて、もうひとり欲しくって」
「………」
「もちろん毎日なんて言わないけど、週の半分くらいお手伝いって感じでどう?いい提案でしょ?
時給も話し合って決めましょう。……その代わり、かなり頑張ってもらうけど」
生まれた時から将来が約束された人生。
いつかは花蔵の仕事を任されることはもちろん分かっていたし、それを嫌だとは思ってない。そういうものだと認識してる。……ほかのヤツからすれば、嫌味に聞こえるかもしれねーけど。
でもあまりにいきなりの提案に、思わず顔を顰める。
まだ高2とはいえ、あと4ヶ月もすれば受験生。
「……あの、」
おずおず。
口を開いたのは、俺の隣で話を聞いていた鞠で。
「それ……恭じゃなくてわたしじゃだめですか?」
はあ……?
「わたしが蒔とふたりで暮らしてたことはご存知だと思うんですけど……
本当は自分で養ってあげたくて、でもそうすると蒔の面倒を見る人がいないし、そもそも高校生で働けるとこなんて限られてるし……」
もう二度と帰ることの無いあのマンション。
鞠と蒔が贅沢に部屋を使っても余る広さのそこ。
「それで嫌々お父さんに甘えることしかできなかったから、ずっと悔しくて……
でもいろんなことが解決した今、蒔を養うっていうより、自分のためにもっと自立したいと思ってて」