何時からだろう、目に入る景色に色が無くなったのは、口に入れる物が
砂を噛んでいる様にしか感じなくなったのは。
何時からだろう、他人の言葉を素直に聞けなくなったのは。
眠ると以前の様に悪夢を見るから寝れなくなったのは でも、起きていても
思考は姉と一那の寄り添って歩く後姿を思い出すから不必要な
仕事を受けて、がんじがらめになり、身体は疲労しているのに
回復する手立てを自分で故意に断ち切るようになったのは
同情して欲しいのか?気力が無くなってどうでも良いと思うように
なってしまったのだろうか。
考える事を、起こりうる結末を考えたくないと遮断させたままにしている。

咎められるような気がして母とも仕事が忙しいと会わないでいた。

顔を合わせると何かを言いたそうな一那を避ける様に無意味な事を
話しかける。
私が話しかけている間は一那は私に何も言わない・・・
だから時間稼ぎだって解っていても別れを切り出されない様に
話続けていた。
そして一人になり、ヘトヘトで座り込み、今日も別れを切り出されなかった
事に安堵しつつ、無駄な事をしている自分が憐れだと解っているのに
止められなかった。


日に日に一那の目が生気を失っていくのに気がつき、今日でお終いに
しよう、と朝ベッドの中で一那の寝顔を見ながら決意するのに、
顔を合わせると、一那が欲しい一言を言ってあげられなかった。

たった一言
「もう、離婚しよう。」
どうしても口にしてあげられない。
好きな人の幸せを望むのが本当の愛だと知っている‥‥知っているけれど

でも、流石に一那が段々元気を失くしていく姿を目の当たりにしていると
今の生活を持続させようとしている私の不毛な考えは間違いなんだと
突きつけられているのをヒシヒシと感じる。
そして鏡に映し出された自分の顔を見て、決して幸せに見えない自分の顔を
見ると、もう限界なんだと認めるしかなかった。
一緒に居たい。でも、一那のあんな顔を見たい訳じゃなかった。
私は愛していて一番想っている人の幸せさえ願えなくなってしまった。

鏡に映る私も幸せそうじゃない、一緒に居て愛して欲しい一那も
幸せそうじゃない。

この生活にピリオドを打たないといけない瞬間(とき)はもう、そこまで
訪れている。

せめて最後の瞬間(とき)くらいは私が決めても良いよね?