なのに、私が結婚しているなんて・・・・
それもカズ君と・・・

「カズ兄・・お母さんと少し2人にさせて貰っても良い?」

そう言って母と2人きりになったのは母だけは私の全てを知っているから。

「お母さん、私がカズ兄と結婚しているって本当なの?」

母を真直ぐ見たのは、怖かったから。
本当は違うって言って欲しかったから。
でも、母は少し困ったような顔をして

「そう、貴方は 加瀬 柚菜で間違ってないわ。」

どうして、どうしてそんな事に・・・・
溢れる涙は、好きだったカズ君と結婚出来たからじゃない。
出来る筈の無い人と結婚出来たその事態が怖いから・・・

「ねぇ、もしかして私に子供とかいる?」
「え! 流石に子供は居ないわよ!」
少し母が笑った・・・
「・・・じゃあ、流産した事とかある?」
「な 何を言っているの? 何か身体に不調でもあるの???」
「違う・・・カズ兄が私と結婚した理由が私が妊娠したからなのかと・・・」
「違うわよ。 妊娠なんてしていない・・・貴方達は一那君が言う通り
お互いがお互いしか見えない位に好き合っていたのよ。」
「お母さん! 私、昔の記憶は覚えているんだよ・・カズ兄は私の事なんて
幼馴染としか思っていなかったのを覚えている」

目を見張る母・・・・そしてポロポロと涙を零しながら

「柚菜、もしかして2年以上 記憶が無いの??」
「大学時代が朧気なの・・・・ハァッ」私は嗚咽と一緒に溢れて来る
涙をどうする事も出来なくて車椅子の中で頭を膝に付けて外に声が
洩れない様にすると、母がそっと私の頭を抱き抱える。

「柚菜、貴方が思っている事、想像している事は多分、お母さんは解るわ。
高校生から大学生に掛けて、貴方に起きていた事も大体は解っているつもり。
でも、全てを解っている訳じゃないの・・・だから教えてあげられない。
それは憶測だから・・・でもね、一那君と柚菜は昔から思い合っていたの。
それは確かだった。」
「そんな事無い! だってカズ兄は・・・」

あの夏のキスシーンが頭に過ぎる。そして胸の奥がザワザワと波打つ。

「柚菜と一那君との事を、ここで私が話すのは違うわ。
だって、廊下に一那君本人が居るのだから本人から聞くのが一番確かよ。」

「お母さん、怖いの・・4年かけて忘れようとしたんだよ。苦しんで苦しんで
自分の道を開こうとした。T大に受かった時点で私は自分のカルマから
抜け出せたと思ったのに・・どうして今、それ以上に苦しむ
状況になっているの?」
「柚菜、どうして苦しみだと思うの?幸せな生活だった・・・それが続くと
どうして思えないの?」
「解らない。解らないけれど、あの時よりも私はもっと辛くて苦しい思いを
これからもしないといけないんだ・・そう私の心が叫ぶの。寝ていると夢で。
起きていても、フッとした言葉にダークサイドに引き込まれる感覚に
襲われるの・・・そう潜在意識が言っているのに幸せに結婚生活を
送っていたなんて信じられない。」
「フッとした言葉って?」
「先生って言葉に胸が締め付けられる・・・・」
「ヒュー」
母が息を吸った・・・確かにその言葉に母の顔が緊張した。
「何か知っているの?」
「・・・・・・柚菜ちゃん、どうしてT大にしたの?」
「・・・どうしてなんだろう???? 解らない・・・・」
「柚菜、一那君と話しなさい。自分が疑問に思っている事、
聞かないとスッキリしない事を・・・」
「ねぇ、どうしてお姉ちゃんは病院に一度も来てくれないの?」
「・・・・香菜は今、佐倉家に居ないのよ・・・・」
「居ない? どういう事?」
「お母さんも、どうしてかは本当の所は解らないの・・香菜が
大学を卒業した年に手紙を置いて出て行ってしまったの。
”探さないで下さい。 自分の道は自分で切り開きたい。
自分らしく生きたい”そう書いてあったわ。お父さんはもしかしたら
居場所を調べて知っているかもしれないけれど、私は知らないの。
スマホは解約していないから連絡を取ろうと思えば取れるかも
しれないけれど、香菜が居場所がここじゃないと判断したから・・
連絡してしまったら、もしかしたら二度と電話に出てくれなくなるかも
しれない・・・だからもしもの時にその手段を失くしたくなくて
敢えて何も出来ないでいるの・・・」