ある年の1年前……。

夏の終わり。




私、小森深雪(こもりみゆき)は鏡の中の33歳の自分を見て、今日も思った。



地味。




地味、という言葉は、なんて的確に私という人間を表現しているんだろう。

しっくりくる。


流行りものにさほど興味もない。

それよりも長く大切に使えるものが好き。

高額なブランド品やアクセサリーにも疎い。

キラキラまぶしくて、みんな同じように見える。



趣味といえば、読書と絵を描くことくらい。

お出かけといえば、本屋か動物園。




就職活動も失敗している。

見兼ねた私の母の兄である、(かおる)おじさんが声をかけてくれた。

薫おじさんの経営するカフェ、「黒猫」で働かないかって。



「黒猫」は温かい場所で、お客様も他の従業員も、良い人達ばかり。



ナチュラルで優しい色合いの店内の内装。

美味しいコーヒーをはじめとする、様々なメニュー。


地味で、なんにも自慢することなんかない私だけど。


ここで働いていることは、何よりも自慢にできると思う。


……まぁ、自慢する相手もいないけれど。