沈黙を破ったのは向こうだった。
何について謝られたのか分からず言葉に詰まっていると、彼が続ける。
「今日、どうしてもお前をここに連れて来たいって清が言ってたんだよ。理由は聞いても教えてもらえなかったけど」
それは少々意外だ。
これまでの経緯がどうであれ、美波さんと彼は良好な関係を築いている。何でも喋り合う仲なのだろうと思っていたけれど、今回は例外らしい。
「俺の頼み、聞いてくれてありがとな」
『清の傍にいてやってくれないか』
まだ一か月も経っていないのに、随分と遠い日の記憶のように感じる。だけれど、彼の「頼み」を忘れてはいなかった。
「別に、あんたに言われたからそうしてるわけじゃない」
嘘でも見栄でもなく、本音だ。彼に頼まれたからその通り従っている、という単純なことではなくて、もっと複雑な結論である。
美波さんの押しが強いから、というのも一つの理由だし、彼女が僕の絵を求めているから、というのもまた一つ。それでも、結局突き放さなかったのは、僕自身が美波さんの描く絵に興味を持ってしまっているからかもしれない。
「そうか」



