張りきった様子で声を弾ませ、彼女は僕に向き直った。
「私は、み、な、み、さ、や、か、です」
一文字ずつ手の形を変えて、紡がれる名前。よどみなくすんなりとできてしまうあたり、小学生の時に習ったきりではなく、幾度か使う機会があったのだろう。
「五十音ぜんぶ頑張って覚えたんですよね~。航先輩の名前も分かりますよ! ええと、」
わ、た、る。
呟きながら、美波さんが僕の三音を手で表す。
「もう一回やって」
「えー……と、……わ、た、る」
「僕のじゃなくて」
「はい?」
首を捻る彼女に、「君の名前」と急かした。自分の名前を繰り返されるのは何となくむず痒かったからだ。一音一音、大切なものみたいに発音しないで欲しい。
彼女のことを、時折高校生に化けた小学生なんじゃないかと思う節がある。それくらい残酷で無垢な光を伴って、美波さんは生きているような気がするのだ。
「み、な、み、さ、や、か、です。覚えました?」
「……六つは多いから、最後の三つだけにして」
「最後の三つって、」
僕の放った言葉をなぞり、彼女が分かりやすく表情を明るくする。
それを直視する気力はなくて、視線を逸らした。
「えへへ、分かりました。さ、や、か、です! 覚えて下さいね」



