「あ! さやかちゃんと、じゅんくんだ!」


こちらに駆け寄ってきた少女が、嬉しそうに顔を綻ばせる。
視線を合わせるようにしゃがみ込んだ美波さんは、いつも以上に柔らかい声で受け答えた。


「ユイちゃん、こんにちはー。お母さんと来たの?」

「そうだよ!」


と、兄妹の後ろにいる僕に気が付いた少女が、途端に目を見開く。


「あ、お兄ちゃんも、こんにちは!」

『お兄ちゃん、ユイと友達になってくれる?』


髪を二つにくくった女の子。スイミーの絵を描いて、友達に変だと言われた女の子。
わざわざ小指を結んで約束までしてしまった日のことを、よく覚えている。


「あのね、ユイね、学校でみんなに言ったの。変って言われるのやだって、ちゃんと言ったよ。そしたらね、アユミちゃんとカヨちゃんはごめんねって謝ってくれたけど、タイガくんは『だって変じゃん』って言うの! だから、ユイ、怒ったよ。でね、けんかしちゃった」


幼くて拙い言葉で、目の前の少女は懸命に伝えようとしていた。焦ったように次の言葉を探して口を動かし、手をきつく握りしめている。


「うん」