随分と久しぶりに聞いたその単語に、僕も懐かしいという感想を抱かずにはいられなかった。

スイミー。小学校の国語で習った物語文だ。
仲間は全員赤い魚であったのに、自分だけ真っ黒な、小さい魚の話。細かいストーリーは忘れてしまったけれど、赤い小魚たちは群れを成して大きな魚の形で泳ぎ、スイミーは「目」の役割として泳ぐ。その場面だけは、教科書に載っていた絵が印象的でよく覚えていた。


「じゃあここにいるのがスイミーだね。一匹だけ色が違うから」


そう言った美波さんが、小さな画家に目配せをする。


「うん、そうなの。……でもね、ユイの絵、変だって言われちゃった」

「お友達に言われたの?」

「うん。このお魚の色、教科書のと違うって。もっと真っ赤だよって、みんな言うの」


恐らく、スイミー以外の小魚のことを言っているのだろう。幼い瞳が自信なさげに揺れた。


「さやかちゃん。ユイの絵、変?」

『航先輩と同じような子もいます。その子は、自分の障害も前向きに捉えて――』


この子か、とその時なぜか唐突に思った。
一切迷うことなく美波さんに慕っていったのも、もどかしそうに景色を眺めているのも、全て説明がついてしまう。


「変じゃないよ」