理不尽だと思う。ここで僕が断ったとて、状況はさして変わらない。
頼んでいるのはそっちだろう。どうして僕が困らなければならないんだ。どうして、僕に主導権がないんだ。
どうしてこの兄妹は、こうも忖度なしに僕の世界に踏み込んでくるんだ。
「あーっ! こら、また散らかして! ちゃんと片付けなさい!」
背後から明るい叱り声が聞こえる。一音一音、はっきりと輪郭の取れた、美波さんの声だ。
なんとはなしに振り返ると、怒られた少年たちが走り回っている。
もう、とため息をついて、そこかしこに散らばったクレヨンを集める美波さんに、一人の女の子が近寄っていった。
「さやかちゃん、ユイの絵、みて欲しいの」
「ん? ユイちゃんが描いた絵? みせてみせて」
小学校一、二年生くらいの子だろうか。
膝に手をついて屈んだ美波さんは、その子の持つ画用紙を丁寧に視線でなぞってから口を開いた。
「とっても上手! すごいねえ。でもこれ、いま描いたのじゃないよね? 学校で描いたの?」
「うん。みんなでね、スイミー描いたの。さやかちゃん知ってる? お魚のスイミーだよ」
「知ってるよ! 懐かしいなあ。私も習った」



