頼み。お願い。人に媚びること。
全て同列だと思っていた。自分の利益のために、他人を利用する。それを悪だとは思わない。そうしなければ生きていけない、人間は弱い存在だ。

だから僕はいくらでも利用した。自分に利があるように立ち回った。
媚びて取り入って、時には這いつくばって。僕を見下してくる奴らを、逆に心の中で見下してやった。

お前らは自分より弱い人間を蔑んで悦に入る。そんなお前らを、僕は蔑んでやる。
汚い。醜い。見苦しい。自分で自分の穢さを自覚できないような人間に、僕を貶められてたまるか。


「それをして、僕に何のメリットがあるんだよ」


彼も、彼女も、強引だ。媚び方をまるで分かっていない。
遠慮もなければ可愛げもない。人に頼み事をする時は、もっと計算高くいなければ。


「……メリットは、ない」


短く答えた彼が、顔を上げる。


「これは俺の勝手な、お前への頼み事だ。本当に清のためになるのかも分からない。正直、お前のことはまだ好きになれない」


可愛くないしな、と再度感想を述べられ、少々不快だ。愛想を振りまいたつもりは確かに一ミリもないけれど、そう言われると何となく気に食わない。


「だから、引き受けるか断るかは好きにすればいい。ただ、清は――俺の妹は、それとは関係なしに、お前についてまわると思う。追い払うかどうかも、お前の自由だ」