そう声をかけられて椅子を引いた僕に、ショータが「何? 告白?」と茶化してくる。
まあ、十中八九そうだろう。
僕はそこそこ異性に好かれる方らしく、高校に入学してからこういったことは今までも何度かあった。だから、別段驚くこともない。
とはいえ、そんなことは微塵も口に出すつもりはないけれど。
「さあ……何だろう。相手の子、見覚えないんだけどなあ」
「悪いなあ、お前。そんな知らない子にまで惚れられてんの?」
「そういうんじゃないって」
あくまで戸惑ったような表情をつくるのは忘れない。
立ち上がってドア付近まで歩いていくと、僕を呼んだ女子生徒はじっとこちらを見つめて口を開く。
「あなたが、犬飼航さんですか?」
胸下まである長い髪が真っ直ぐ垂れていた。僕よりも頭一つ分は小さい背が、姿勢よくピンと伸びている。
「そうだけど……」
歯切れ悪く答えた僕に、彼女は途端、目を輝かせる。二重瞼を何度もぱちぱちと瞬かせ、良かった、とその唇が動いた。
「ずっと会いたかったんです。私、入学してからずっと――」
「ちょ、ちょっと待って」
まさか突然切り出されるとは思わず、焦ってしまった。つと周囲の様子を窺えば、好奇の視線が突き刺さる。
「場所変えよう。ここだと落ち着かないから」
渋々こちらからそんな提案を投げかけ、彼女が頷く。ほっとした。