涙が止まらない。今この瞬間を、彼が届けてくれた想いを、目に焼き付けなければならないのに。
必死に拭っていると、後ろから優しく肩をたたかれた。
「これ、落としたよ」
どうやら私を追いかけてきていたのは、落とし物を返却するためだったらしい。
彼が差し出したのは私の写真だった。それも満面の笑みで写っている一枚だ。封筒を開けたままだったので、ぶつかった時にでも落としてしまったのだろう。
「パンフレットを持っていたから、これを見に来たのかなと思って追いかけたけど……合ってて良かったよ」
「あ、ありがとうございます……」
「素敵なラブレターだね。もう落としちゃだめだよ」
「え?」
彼の言葉に首を傾げると、「あれ、もしかして気付いてない?」と目を見開かれる。
「裏もちゃんと見てごらん」
じゃあ、と踵を返した相手を呆然と眺め、それから恐る恐る写真を裏返す。
『僕は君の笑っている顔が一番好きだ』
ほんの少しだけ収まったはずの涙が、復活した。息を吸うのも大変なくらい泣いてしまって、その場にしゃがみ込む。
俯いた先には、あの日のような水たまりはない。小指を結んで約束することもない。
だって、約束はもう果たされた。私たちは自由だ。どんな道でも歩んでいける。
顔を上げる。涙を拭いて、彼が好きだと言ってくれた笑顔をつくる。
私は立ち上がって、「大切な人」への通話ボタンをタップした。
Fin.



