「航先輩、アドバイスを下さい!」


相変わらず、よく通る声だ。しかしそんなことを言っている場合ではない。


「……美波さん、教室にはあんまり来ないで欲しいって言ったんだけどな」


僕たちの横を通り過ぎていくクラスメートが、何だまたか、といった様子でこの光景に順応してしまっている。

彼女の態度は清々しいほど変わらなかった。それどころか、いっそ図々しくなっている気もする。
こちらも無愛想に受け流せれば良かったのだけれど、人目があるとそうもいかない。誰にでも優しい「僕」でありたかった。


「じゃあ航先輩が美術室(こっち)に来て下さいよー。ちょっと顔出してくれるだけでいいんです」


そのちょっとが嫌なのだ。大体、なぜ僕が彼女の面倒をみることが前提になっているのか。

美術部に入った一年生は、まず最初にアクリル画に取り組む。上級生からの助言を受けながら行われるそれは、新体制となった部内でのコミュニケーションを円滑にするためのものでもあった。


「僕は部外者だから。他の先輩にみてもらうのがいいよ」