キャンバス一帯に広がる青。そこに架かるのは、紛れもなく、白い虹だ。
透き通っていて儚くて、今にも消えてしまいそうな白虹。でも確かにそこにある。
この空は昼でも夜でもない。私と彼が見に行った、朝の空。
柔らかい霧がかかっている。澄んだ空気が見える。夜の気配を背負った暗い群青と、始まりを告げる爽やかな青白磁が手を取り合っている。
初めて航先輩の絵を見た時もそうだった。
どうしてこの人は、こんなにも美しく青い世界を描けるのだろう。この絵だって、青と白しか使われていないのに。
この世界には“暖色”と“寒色”があって、私が見えるのは、肌寒い色、らしい。
寒いって何だろう。それよりも、暖かいってなんだろう。あたたかさを知らない人間なんだって言われているみたいで、私はそれが悲しかった。
でも、航先輩はすごい。どんな色を使っても、彼の絵は温かいのだ。柔らかくて繊細で、その儚さにみんなが目を奪われる。
寒いなんて、冷たいなんてそんなの嘘だ。航先輩が優しくて温かい人だって、私は知っている。
弱さを隠そうとして強がる時、誰しも差し出された手を振り払ってしまうけれど。彼は振り払うことがあっても、そのぶん他の誰かに差し出すことのできる人だ。
『虹なんて何色でもいい。七色だろうが二色だろうが――ましてや一色でもいい。君が見た虹は、これから見る景色は、何もおかしくないんだ』



