手紙のことは誰にも言わなかった。

土曜日の午後、一人でバスに乗って大学へ向かう。航先輩からの手紙はお守りのように鞄の中にしまってある。

校舎は高校よりも圧倒的に大きくて、中も綺麗で広かった。
休日なのにキャンパス内は意外にも人が多い。活気に満ちていて、とても賑やかだ。

封筒を取り出し、パンフレットを確認する。


「えーと、三階の……わっ」


きちんと前を見ずに歩いていた罰が当たった。
躓いた――否、ぶつかった先は、若い男の人だ。恐らくここの学生なのだろうということは容易に判断できる。


「あ、ご、ごめんなさい!」

「いや……大丈夫だよ」


へらりと笑った彼に、優しい人で良かった、と胸を撫で下ろす。
会釈をして立ち去ろうとした刹那、「君、もしかして」と声を掛けられた。


「えっ、な、何ですか?」


じっと観察するように見つめてくる相手に、冷や汗が出てくる。

何だろう、異様に見られているような。ひょっとして、ここの学生以外は入っちゃいけないところに来てしまったとか。それとも、構内に入る前に身分証提示しなきゃいけなかったとか。

まずい。航先輩の絵を見るまでは、絶対に帰るわけにはいかないのに。


「失礼します!」

「え、ちょ、ちょっと君……!」