虹色のキャンバスに白い虹を描こう



駅に着いた頃には雨足が弱まっていて助かった。傘を買っている余裕はない。

清が乗る予定のバスが発車するまでは十五分だ。何とか間に合った、と思わず大きなため息が漏れる。
駅構内地図でバス乗り場の場所を確認すると、僕がいるところとはちょうど反対側――つまり、どれだけ急いでも五分はかかる。

理解するよりも先に足を動かした。走る。とにかく走る。
何度も人にぶつかりそうになり、その度に怪訝そうな顔をされ、それでも絶対に止まるわけにはいかなかった。

苦しい。肺が痛い。こんな全力疾走は体育でしか、否、体育ですらしたことがない。後にも先にも、今日しかないだろう。

駅の出入り口が見える。そこを出て左に曲がれば、バス乗り場だ。
自動ドアを抜けて外に出る。

雨が、止んでいた。


「清!」


賭けだった。彼女が今日どんな服を着ているのかも、どんな髪型でいるのかも知らない。
目に入った黒髪の背中が彼女でありますようにと、願うことしかできないのだ。

だから。


「…………航先輩?」


まさかその声が後ろから聞こえるなんて、予測もしていなかった。


「どうして……先輩が、ここにいるんですか」