虹色のキャンバスに白い虹を描こう




世界史は嫌いだ。
カタカナばかりで人名や国家名が覚えにくいとか、暗記が苦手だからとか、そんなありふれた理由である。黒板に書かれた文字は赤ではないので支障なく読めるし、もし読みづらい箇所があったとしても、クラスメートがノートを貸してくれる。

テスト最終日、最後の科目は世界史だった。
数学や国語などと違って、暗記科目は白黒はっきりしている。覚えていなければ解答欄は埋まらない。思い出せなければ諦めるしかない。

とっくのとうに全ての問題を解き終わり、僕が思案しているのはテストの内容ではなく、今朝届いた純からのメッセージだった。


『今日、清が北海道に行く。いつこっちに帰ってくるかは分からない。もしかしたら、帰ってこないかもしれない』


家から出る直前、そんな文字列が目に飛び込み、少なからず動揺した。学校へ向かう電車に揺られていると、返事を寄越さない僕に痺れを切らしたのか、純からのメッセージが追加で入った。


『午前中に荷物まとめて、昼には家を出るって言ってた。午後の便だ』


乗換駅、電車の時刻表。次々と送られてくる画像に、少しずつ実感がわいてくる。彼女は本当に、遠く離れた場所へ行くのだと。


『お前には言うなって清にずっと口止め食らってたから、俺が情報源だってチクるなよ。当日連絡で悪かった』