うん、うん、と僕の返答を咀嚼するように何度か頷いて、彼が眼鏡を押し上げた。

今日は正真正銘ただの平日、それも月曜日だし、僕らは正々堂々と学校を休んだのである。
清は一度欠席して以来登校していないので、今さら一日行かなかったくらいでどうってことはない、と語っていた。僕に至ってはテストが迫っているのにも関わらず、仮病という手段を打って出る始末である。


「自然はいいよ。雄大な山を見ると、自分はちっぽけな存在なんだって実感するね。それこそ、学校をさぼったとか、そんなこともちっぽけだ。自然の前では、人間はみんな平等に無力なんだよ」

「無力、ですか?」


それまで会話に参加していなかった清が口を挟む。


「無力だね。それが悪いって言っているんじゃない。僕らがどんなに喚いても変わらない歴史があるっていうことだよ。人間は自然に勝てない。昔から、自然災害では多くの人が犠牲になってきただろう?」

「そうですね……」

「一生はすぐに終わるよ。僕もこの歳になるのは、あっという間だった」


目を細めた彼は、「おっといけない」と砕けた口調になる。


「こんなおじさんの話ばかりしていてもつまらないね。君たちは山に登らないって言っていたけど、ここに何しに来たんだい?」