その日はよく晴れていた。正確には、晴れていた日を選んだ、と言った方が正しい。
とにかく、時刻は午前七時。僕と清はバスの中で揺られていた。


「あのー、航先輩」


窓側の席に座っている彼女が、流れていく外の景色に目を滑らせながら口を開く。


「そろそろ教えてくれませんか……? 私たち、どこに向かってるんです?」


バスは林道を上っていき、周りは緑一色だ。乗り込んでから既に一時間は経過している。

昨日の時点で、早朝に出かける旨を清に話した。僕の一方的で半ば強制的な提案だ。彼女だって普段強引なのだから、これでおあいこだろう。


「見て分かんない? 山だよ」

「や、山って……いや、確かにそんな感じはしてましたけど、まさか本当に行くんですか?」

「ここまで来て嘘つく方がおかしいでしょ」


とはいっても、別に登山をしに来たわけではない。山岳観光だ。多少険しい道を上り下りすることはあるけれど、飛び抜けてハードな体験を強いられる、ということはもちろん皆無である。


「それはそうですけど……でも、どうして山に?」


彼女が怪訝な面持ちで尋ねてきた時だった。


「君たち、二人で来たのかい?」