三年生の教室は二階、二年生の教室は三階だ。自分の教室へ戻ろうと階段をのぼりきり、角を曲がる直前に、女子生徒の声が上がった。特に気にせずそのまま曲がろうとして、視界に入った「彼女」を認識した瞬間、たまらず引き返す。


『犬飼くんのことが好きです。付き合って下さい!』


多分、一か月ほど前のことだ。放課後、校舎裏で僕にそう告げた彼女が目の前にいる。

すぐに隠れたので、向こうは僕に気が付いていないようだった。そのことに安堵しつつ、こんなところでその話をしないでくれ、と切実に頼みたい。
休み時間が終わるまで、あと五分とちょっと。チャイムが鳴れば彼女たちも教室へ戻るだろう。引き返して遠い階段に行くよりも、ここで待っていた方がいい。


「振られたっていうか、私が勝手に告白しただけっていうか……」

「でも、『うん』とは言ってくれなかったわけでしょー? シホぐらい可愛くてもだめって、犬飼くん鉄壁だね」

「あはは……まあかっこいいし、彼女いそうだよね」


勝手に鉄壁呼ばわりされ、何とも言い難い気持ちになっていた時だった。


「彼女はいないっぽいけどー、それをいいことにつきまとってる子はいるらしいよ?」