息を吞む音がする。自分のものか相手のものかは判断がつかない。多分、両方だ。

彼女が僕の絵を食い入るように眺めている。僕は、彼女の睫毛を見ていた。


「……私、ですか?」


弱々しい問いに答えるより先、清が俯く。


「私ですよね。……そう、ですよね」


声が出なかった。だから、心の中で「そうだ」と答えた。

清が描いた海は、船は、僕だった。どこまでも青くて眩しい、僕だった。
だから僕も彼女を描こうと決めた。

彼女は清々しくて清らかで、名前の通りの人間だ。彼女を何かにたとえるとするなら、それは水以外にない。
水たまりの中、青く眩しく笑う彼女の構図を思いついたのは、雨の帰り道に傘をさして一人、清のことを考えていた時だった。


「嬉しいです。すごく……すごく、嬉しいです」


それなら、どうして悲しそうでやるせない顔をしているんだ。
彼女は眉根を寄せ、瞳を潤ませる。細い指で僕の描いた自分自身をなぞる。


「本当に、嬉しいんです……嬉しくて……それなのに、」


呼吸が乱れて嗚咽交じりになっていく清の話し声を、ただ聞いていた。
涙が一滴、水たまりに吸い込まれていく。そこだけじわりと滲み、水彩画独特の揺らぎが生まれる。


「こんな状態で航先輩の絵なんて、見たくなかった……」