と、再び言い淀んだ彼は、何か悪いことでも思いついたらしい。不敵に口角を上げ、自信満々に告げた。
「赤。赤いものにしようぜ!」
「ちょっと、タイガくん! わたるお兄ちゃんは……」
思わずといった様子で身を乗り出したユイの口を、手のひらで塞ぐ。
彼女の言いたいことは分かっていた。自分と同じように、赤を鮮明に見ることができないから。そう伝えたかったのだろう。
だけれど、そのことはタイガだって知っているはずだ。
絶対に勝ちたいからこそのテーマ選びなのだと思ったし、変に忖度されるよりよっぽど清々しい。この頃の純粋さは、一体いつ失ってしまうのだろうか。
「いいよ。赤いものだったら、何でもいいんでしょ」
あっさり了承した僕に、タイガは少し面食らった表情で頷いた。
机の上にあった画用紙をそれぞれ一枚ずつ用意して、視線が交わる。
「言っとくけど、手加減なしだからな!」
彼はそれだけ吐き捨てると、クレヨンを一本掴んで早速取り掛かった。恐らくタイガが握っているのは赤のクレヨンだろう。
こちらも始めることにして、僕は一番端にある黒いクレヨンを手に取った。
「わ、わたるお兄ちゃん、それ、黒だよ?」



